Labo Kurohama  巻頭言保存

 7頁(301~350) 


301.   感心してはおこられるのだろうけど、刑務所を抜けてよく1か月近く逃げ回っていられたもの。海を泳ぎ渡り、盗みを繰り返し、車やバイクをに乗り、電車で旅までする。意味はともかく、やればここまでできるという一例を見たような気持ちにならざるを得ない。同じ頃、南北朝鮮のトップ会談。こちらは、何でこのくらいとっくにやっておかなかったのかと思うだけだ。深い事情はあったろうけど。命助かりたい指導者おにいちゃん、功名心に焦るアメリカの使いっ走り大統領。抱き合ったりえへらえへら笑ったり。恥ずかしくないか、昨日までのことがある。これは仕事。仕事でノーベル賞をもらおうなど、夢にも思わぬこと。(2018.05.03) 

 

302.   90歳で亡くなった母は学と無縁、無知でもあった。戦争は絶対だめと言いながら酒を飲むと軍歌を歌った。天皇をこき下ろしたかと思うと、戦争を起こしたのは取り巻きの軍隊だと天皇を弁護した。つまりはよくある庶民。今はこんな言動は盛んでないが、戦争をして負けた国での憲法論議は続いている。憲法を変えるも変えないも、決めるのは庶民。生きていれば103歳になる母と認識がそう変わらない人々が決める。賛否の推移にはおおむね激変がない。変えたい人は改憲発議を射程に入れ、一方、その推進内閣は求心力を失いつつある。庶民を改憲に誘導するか、庶民に護憲を説くか。本来憲法を確認する日にこの有様の日本。(2018.05.04) 

 

303.   日本の非核三原則は時の首相にノーベル平和賞をもたらしたが、核は日本に常置されていた。オバマ氏は優れた米大統領だったが、就任1年の「核のない世界」演説で受けた平和賞はその後意味をもたなかった。ベトナム戦争を終結させたパリ会談で米代表だった国務長官は平和賞を受けたが、ベトナム代表はそれを辞退した。意味不詳のこの賞を今の米大統領が受けるかもしれない。「悪くないね」と本人がにんまりしたと思うと推薦運動が始まった。こんなバカな話があるか。当たり前の職務を3日やった職業人が大それた賞をもらうなど。イグノーベル賞なら話は別だ。この特別版を北の指導者おにいちゃん様にも贈ればいい。(2018.05.05)

 

304.   五月、一団の鯉のぼりが風薫る空に翻る。構えのいい家でよく見られたこの光景がこの頃まれになってきた。上げる者は上げ、上げない者も見てともに喜ぶのが鯉のぼり。押しつけの匂いがなく、大きな空に似合う。これが廃れつつあるのは、常識人に属する人々が価値観を支えきれない世相のすさみゆえか、それとも単に子どもが減ったためか。子どもの日を旗日という。国旗と言われる旗が門々に揚がったから旗日。その日の丸もあまり見かけなくなくなった。こちらはひらひらの布に頭を下げさせられるのを断った側だが、ともかく国旗になったものがこのさまかという客観的感覚はある。何だか元気のない子どもの日だ。(2018.05.06) 

 

305.   大型連休、GWはいつも見送り。現役時代はブカツと呼ばれるもののおかげで休むどころではなかった。その禍を蹴った後、この時期の混み合い方に恐れ入って撤退した。宮仕えを辞めると、物価が急騰する連休時期に出かける必要がなくなった。一度だけ五月初めに北海道へ行き、なお寒い空の下で桜を見たことがある。桜はピンク色がわずか濃く、花弁の反りがやや強く、花がいくらか小ぶりに見えた。そのような桜の木が川の堤防に点々と並んでいる。人影はまばら。空も花も水も清澄なものと感じられて何だか目が熱くなった。故郷だからか。今年は陽気のせいでそんな風情ではなかったらしい。いつかまた浅き春に、と思う。(2018.05.07) 

 

306.   話せるようになったばかりと見える女の子の歌声がすぐ近くのアパートから聞こえてくる。何の歌か知らないが段々調子が出てご機嫌になり、そのうち続かなくなってけらけら笑う。生きているとはこういうことか、笑っていたものがこんどは泣き始める。あらどうしたの、とお母さん。陽気な娘とおっとり優しい母親。こんな平和はない、のだけど、同じアパートに対照的な母娘。勤め前に保育園に連れて行くらしく、母親が朝から無遠慮な癇癪声で娘をこづき回す。車に放り込まれる娘は無感覚な顔。近い将来荒れるに違いないと思う。見られている時はこの親も静かで、通りがかりは口を出せない。癇癪の治癒、どうすればいい。(2018.05.08) 

 

307.   公設秘書費用の流用が発覚し苦境に立った社民党所属の国会議員が党に助けられ、立ち直る。義理ある党の代表就任を要請されるもこれを拒否。のみならず脱党、当時の民主党に鞍替え。「政権に就ける党がいい」。その民主党が衰退する。これも離脱、立憲民主党に。そこで国会対策委員長になった。この人、次の選挙で国民民主党とやらが自分のところより躍進でもしたらどうするのだろう。国政選挙を1回実施すると費用は600億円かかる。その度に現政権が議席を維持したり勢力を増したりする。野党第一党議員はまた次の就職先を漁る。国政選挙なのに国政が何も変わらない。主に民主党だった人々、今だに責任を感じないか。(2018.05.09) 

 

308.   イギリスの賭け屋たちの予想通りノーベル平和賞が回ってきたら、韓国とアメリカの大統領はこれを辞退すればいい。人物たる者がオトコを上げる道だ。受賞者を北の指導者おにいちゃんだけにして世界が笑えれば平和賞の意味がいくらかは確認される。幼い男のコのおもちゃである核を巡って「お前はやめろ」だの「オレはいいんだ」だの言っても平和には何の貢献もない。それよりはおにいちゃんの国で故もなく囚われている数十万人の良心を救出する方がはるかに急務だ。平和賞はいよいよ大人のおもちゃに墜ちたのだろうか。学校で数十年平和を説いてきた元教員などは候補にしてくれないのだ。こんな賞ならオレはいらない。(2018.05.10)  

 

309.   民主党最後の代表だった人を久しぶりにテレビで見て、相変わらずとげとげしい女性だなと思う。「2位じゃだめなんですか」から始まる人を射るような視線と言葉。あんたの記憶はうまい具合にああなったりこうなったりするのか旨の質問を昨日聞き、こういう上司に遭遇せず済んだ幸運に今感謝する。女性だから女っぽくしてろなどとは言わない。人間としてのユーモアを感じないのだ。ユーモアは駄洒落にあらず、本来は「人情」あるいは「気質」と訳し、人を表す。このあたりに欠ける人が先進国にしては数が少ない女性国会議員の主な一人。あまり小人数だから目立ってしまうのだろう。人よりも男社会国会のせいだろう。(2018.05.11) 

 

310.   去年の今頃、列車とホームの間に落ちた幼児を他の一人と協力して拾い上げた。深刻事態の割に救出は容易だったのだけど、あのように行っていなかったとしたら、と想像することがある。ほんの少しの偶然で子どもの命か当方の腕一本が今と違っていたかもしれない。想像すればきりなし。小さなトラウマはもう少し続きそうだ。あの子はきっと元気にしているだろう。電車の下での冒険をそのうち得意になって話すのかもしれない。もう少し歳を取れば「もしかして」と時に考え込むのかもしれない。いろいろあって成長するだろう。命を奪われて線路際に遺棄された7歳女児にはそういうことがない。ただ犯人が捕まるだけだ。(2018.05.12) 

 

311.   もう30年前なのか。上野駅や大宮駅で「札幌」行きの列車を見て衝撃を受けたっけ。この世に生きて初めてこの世が変わったように感じた。北海道を北海道たらしめる深く広い溝、津軽海峡を越えて列車が走ろうとは。遠いはずだった故郷が、近いというより曲がった時空のすぐ向こうになった。この受け容れづらい事実が普通になった今は札幌行きを目にすることがない。代わる新函館北斗を、そりゃどこだと思う。札幌はどこへ行った。また現れるのは当方80歳の年だという。通勤列車で上野へ行くとき、手前の尾久駅で長距離列車「カシオペア」を見る。動いていたためしがない。この頃の鉄道には迷い込みたい不思議がある。(2018.05.13)  

 

312.   ラジオから「バラが咲いた」。日本のフォークソングの草分けだけあってほんとに素朴な歌詞。フォークの時代は短くなかったからその歌詞は次第に洗練されていくのだけど、凝りまくらないでと願ったものでもある。世界でひとつだけの花が云々という今時のヒット曲は、そんな花がいかにけっこうなものであるかを言葉を尽くして説明してくれる。そうだねと納得する一方、詩とはそんなに教示的なものでもあるまいと思う。日本のさきがけがマイク眞木のバラなら世界のそれはピート・シーガーの「花はどこへ行った」。誰でも覚えられ、歌える。ギターで彼女と歌おうとは思わないが、いつかまた聞こえてきてほしいものだ。(2018.05.14)  

 

313.   地域の住人が子どもの命を奪う。受け容れがたいが、近くだからこそかもしれない。元来、「おてんと様が見ている」から人間は悪いことができなかった。この自然畏敬感覚は宗教になってもいいものなのに、国家神道の過ちが半端なものにしてしまった。一騒動で死者50人という中東での宗教的悪徳など見るにつけ、人間に心優しい監視役はいないものかと思う。昔々、子ども心にずいぶん長く感じられる道を一人で幼稚園に通った。自転車に当たられて怪我をし幼稚園中退に追い込まれたが、命を狙われたとは思っていない。手当てを受けた近くの家に一日いた。「人さらい」もいるらしかったが、地域は人を助けるものだった。(2018.05.15) 

 

314.   北朝鮮が南北閣僚級会談の中止を通告。わからない国というより、いつものわかり易い国に返った。おやと思う理解を示し始めた米韓軍事訓練をタネに突然韓国を責め、アメリカには米朝会談の用意を進めると言わせる。米韓分断、それ以上に韓国無視方針。対米対等化を独自に狙うしたたかさを褒める向きがあるに違いない。見え透いたしたい放題をする者を巧者と呼ぶのだろうか。同じ時、米国連大使が言う。イスラエルによるパレスチナ住人60人の殺害が米大使館エルサレム移転とは無関係の旨。これは理解し難い。わかり易い北朝鮮とわかりづらいアメリカがわからない放題のトップ会談をする。こんな世界情勢は初めてだ。(2018.05.16) 

 

315.   自分たちが生まれ生きているこの時代は、史上空前の一時期だ。世の中の在り方を変える数々の発明発見がこれほどあった昔を知らない。といって、ロケットで月や火星に行くわけでなく、コンピューターなしで明日を生きられないとも思えない。偉大なる発明にもそれがどうしたというところはあり、歴史上のこの特定時期のありがたさは実はそれほど意識されない。それでも時折じわっとしたもの感じさせるのはいくつかの事務用品。マジックインキ、セロテープ、ホチキス。これらがなかった前世紀半ばの日常をどう過ごしていたのか、実感をもっては思い出せない。革命的大発明でないのにスゴい物といえば、次は何だろう。(2018.05.17)

 

316.   そもそも争っておいて今度はケンカだというのでは世話がない。戦争にでも行くようなあの物々しい鎧のようなユニフォームのような装甲。どこから弾や獣が襲ってもいいようにという心配の結果と見えるが、意外にももろいのだろうか。体当たりされて3週間のけがとは。かつて盛んだった「プロレス」は、ルールがあってへったくれはないという具合だった。反則がらみでなければつまらないというほど。その世界の御大ジャイアント馬場によれば、「木戸銭取って見せるものは面白けりゃいいんだ」。それで自身は時々痛い目に遭いながらいたってマジメに戦っていた。子どものケンカに親の口出し。アメフト騒動はどうなる。(2018.05.18) 

 

317.   英皇太子の次男が本日結婚の運びとか。日本の現天皇の結婚が「ご成婚」。誰に使ってもいいはずの言葉が、不思議にめでたい響きの特定用語になった。英国民はこの種のイベントを好むように見える。その女王はかつての清国皇帝、日本国天皇を越えて世界で最も長く王位にある。遠からず後を継ぐ皇太子もすでに高齢の域。引いたり継いだり結ばれたり、慶弔が話題をつないでそのうちあの伝説・ダイアナ妃の長男がイギリスで久しく見なかった男王になる。きっと歴史のクライマックス。何度も危機をささやかれつつ王制と王室を背負ってきたエリザベスおばあちゃん、生きて苦労した甲斐があったと感慨にひたっているだろう(2018.05.19) 

 

318.   北海道のJR留萌線廃止はしばらく前。結局乗らなかった。「てっちゃん」の悔やみはないが、留萌と聞くと近くの増毛(ましけ)が気にかかる。当方おじさん年齢を凌駕しており、普段おやじギャグに関わることはない。それでなお、増毛町は増毛剤の聖地にならないのか、増毛沖の海をマシケ・ナダと呼ばないのかと考え込むことがしばしばある。所属する美術団体に同郷北海道の会員があり、留萌に出張だと言うのできいてみると、笑えて元気が出た旨の回答。現地や付近にその熱は特にないらしい。同じ北海道「愛の国から幸福へ」の切符は全国版のヒットだった。あれは浪漫傾向で趣味が高尚。おやじネタの対抗は叶わずか。(2018.05.20)  

 

319.   「正しきものって我らに決まってんじゃん」。例の確固たる自我で自信満々顔の中国外相がよその国へ行くとその国が台湾と断交する。台湾が世界から干されていく。独立などゼッタイ許さんもんね、といつもつまらなそうな顔の中国主席。縄張りを一坪でも手放したらチベット、新疆ウィグル、青海省、はては四川省辺りまでどうなるかわかったものじゃない。ただでさえ危なかしい党の威光など消し飛ぶであろう...。航空母艦を新造する。海上公安部隊を軍隊に組み込む。巡視艇を武装して海に繰り出す。南中国海は全部ウチのものと勝手に決める。文化大革命の無茶苦茶時代でさえこうではなかった。どうしちまったのか、中国。(2018.05.21) 

 

320.   日本人10数人の拉致、韓国映画監督夫妻他多数の拉致、韓国閣僚爆殺ラングーン事件、大韓航空機爆破事件...。みな北の指導者おにいちゃんの父ちゃんがしたこと。うちいくつかは「そこまでやるな」とそのまた父ちゃんが戒めているが、要するにウチであって国でないあそこの家は何をやっても自由なのだ。「史上初の米朝首脳会談」が座礁しようとするところ。「オレだったらこうしてやる」のおやじ的トランプ発想がやはりあぶない。あの大統領がやれるようなことなら以前の大統領が疾く行っていただろう。明日の予定に今日ヘソを曲げるおにいちゃん家系。先を読ませない主義の大統領。遊んどるんか、とオレなら言う(2018.05.22) 

 

321.   凾館7泊のスケッチ旅。初日、送った本人と同時に小包がホテルに着く。提げてきた方の荷物を見ると、スケッチにぜひ要るスプレーが見当たらない。画材店の在処を調べてもらい、市電で急行。「一軒閉めたと思えばまた一軒...」。店主の語りが面白い。よそから絵を描きに来る函館に画材店は今や一軒のみだそうだ。目的達成、安堵。ホテルの部屋でテレビを見ると、アメフト問題で日大の指導者2人がああじゃないこうじゃないを言っていた。子ども一人にまず言わせておいて大人は後で考えよう。偉い人とは見づらいものだ。明日は駒ケ岳へ行きたい。山に興味がない者を呼び寄せる山。ゼッタイに晴れてこそのあの山へ。(2018.05.23)  

 

322.   北の核実験施設破壊が猿芝居である可能性は百%で、その直後米大統領が米朝会談の中止を丁寧な手紙で通告したのは正常な判断だった。「最後はオレが決める」。指導者おにいちゃん一人に世界を遊ばせるべきではない。あの大統領にしてはスマートな行いだった。命を助けてほしい者、使いっ走りのついでにノーベル平和賞をもらいたい者とともに頭を冷やしたり冷やされたりすればいいだろう。何にでも底意があるのは仕方ないにしても、この三者は底が見え過ぎる。もっともらしいことで騒がせているうちに周りが変に納得してしまうのはいただけない。日大アメフトの偉い人たちがその見本を示しているところだ。(2018.05.24)

 

323.   凾館本線駒ヶ岳駅は3年ぶり。あの時も降りる客は他になかった。地元の人には当たり前だろうが、駒ケ岳の山頂が目の前に見える。旅人だけが旅人らしく感激する。駅前を右に左に二度曲がり、農道に出ると地平線上に山容が一望できる。手前はうねに緑が見え始めた畑、向こうは高みを指して青が深まっていく空。申し分のない好天の下、これがこの世のすべてと言うかのようだ。これを描けというのか。それはそうだ、そのために来たのだった。関東もそ周辺も猛暑の由。澄んで涼しい微風の中、後ろめたいほどの満足感に包まれる。ただ一つ、これをいつまであと何回できるか。六十路下り坂、青は美しくも哀しくもあり、だ。(2018.05.25) 

 

324.   凾館の定宿の近く、ラーメン店一軒あり。これが暖簾を下した。70歳前の店主はいわゆるラーメン屋のおやじとしてはこれからこそがというところ。この店はあのミシュランの星マークつきなのだ。「そこそこじゃないの」が近所の率直評。それでも事実ミシュラン。昼食時は行列が絶えない。稼ぎ時の日曜日が定休。翌日にはちゃんと人が並ぶ。増長して味が落ちたから閉店なのかと勘ぐると、そんなことはないのだそうだ。おとなしくいたって地味な人柄の店主は、「疲れたもの」。店は売るか貸すかして今時ふうの街並みに加わるのかと思うと、ただの家にする工事が始まっていた。簡潔な閉店挨拶潔し。行列しとけばよかった。(2018.05.26)  

 

325.   日大運動部の不祥事について今日大学から関係者の処遇が発表されるという。部活動の暗部が日にさらされたのは然るべきことで仕方なくも望ましいが、ブカツ化した部活動の本当の暗部は、奴隷的強制労働が公共の労働環境で行われていること。日本には労働哲学がよほど欠落しているように思われる。この間論じられたのは表面的な責任問題だけだ。日大はどんな処分を言い渡すのだろうか。本来は傷害事案で一般的な刑事事件。扱いは司法が決めること。大学や団体による処分が先行するとすれば、一つ事に対して二重の懲罰が行われることにもなる。陰険だ。よくあるこの種の精神主義で事実の核心に踏み込めるものだろうか。(2018.05.27)  

 

326.   刺身どれでも3パック千円の書き添えに引かれ、イカ、ヒラメ、ツブ貝を取る。速い回転の中、束の間の売れ残り。このネタ、どう見ても2千円はというものだ。店入り口のテーブルに座を占め、外の青空を見上げながら悠々ワンカップを開ける。1,500円の大酒盛り。これを極楽という。夕食はホテル隣の店で。ビールとおかずに満足でメシが入らない。持ち帰りたいのでしかじかにと頼むと、おにぎりにしてくれるとのこと。梅と鮭の正調おにぎりが海苔も香ばしく一つずつ。パックの隅には煮豆と昆布の佃煮。ヤクルト2本クッキー4枚とともに袋に入れて渡してくれた。昼は美味が舌に、夜は親切が心に沁み渡った凾館旅の終盤。(2018.05.28)

 

327.   日大と米朝の報道が旅路の先までついて来る。どちらも素直でないオトナの匂いばかりでいただけない。間を縫って、これは大人どころではない90歳の人の話。この歳まで車に乗ってきたのはある種プライドだろうに、最後はこうなるか。赤信号なのに行ってしまうのは論外。後ろの声に送られているから早く行かないと格好がつかない、というのはあり得る。長かった人生、人一人を葬って自ら終わり近し。14年前に9歳だった少女、命奪われなかったら今頃は、という想像は無理だ。自分の子どもも昔この歳だったと思うばかり。気持ちが片付かないこういう事件が多い。アメフト事変、処分、首脳会談、駆引き、どうでもよい。(2018.05.29)

 

328.   ホテルの社長夫妻と滞在中一度昼を共にするのが楽しみ。行く先のビール、ランチや焼きそばも楽しみ。勘定を争って概ねこちらが負けるのも、まあ楽しみ。席を変えたところで面目をいくらか保たせてもらう。そのような流れ先、海鮮丼の店が函館朝市プラザの一角に移って繁盛している。元の店には3回入り、3回とも他に客はいなかった。おにいさん、そんなに無愛想じゃいかんぜ、というところ。若くて頑固一徹なのだと社長。流行るようになった今、やはり言葉少な、忙しくても焦る様子なく悠々黙々の仕事ぶり。絵描き風情がよく来ることは認識していたそうだ。社長とはすでに長い。職人はこの先どんな男と知れるだろう。(2018.05.29)

 

329.   旅に行きたし、旅を愛す。とはよく言うけれど、旅をさすらい歩く浪人者、西部の男、あるいはフーテンの寅さん、胃腸の方は大丈夫なのだろうかと思う。酒は飲むわ、普段でないものを食うわ。その結果、出るべきものが出づらくなるのが道中。北海道8日の後3日、何とか腹具合が落ち着いてきた。キャベツ、サニーレタス、タマネギ、ニンジン、ピーマン、キュウリ、ワカメなど、何しろ七色野菜を千切りやスライスにしてカレーの皿に一杯、昼に。これがあれば死なないかのような気持ちに返る。旅の前に冷蔵庫に残したサニーレタスがまだパリッとしていた。「早く食ってくれ」。野菜との対話って、事実あるものなのだ。(2018.06.03) 

 

330.   「その気になれば3日寝ないで働く、苦じゃない」。立派だ。及ばずながら、当方もひと様が寝ている間に絵を描くことはよくある。それほど苦ではなく、大したこととも思っていない。その昔、人間の暮らしの規模は知れていた。やる時はやる、アコギな商売はいかん、ぐらいに言っていれば済んだ。近代になり物的要求が膨大になってからも日本人は大体同じことを言っていた。血や革命で労働哲学をあがなって労働社会学をうち立てることはなかった。一生懸命は美徳。今もこれぐらいなものだ。そこへ、高度なプロは時間ではなく中身で働くのだ、と言う。どの見識に乗ってこれを言い、行い得るか。「働き方改革」だそうだ。(2018.06.04) 

 

331.   なぜか内閣支持率が回復してきたところで財務省文書改ざん問題に幕引きの動き。東大を出ようが高級官僚であろうが役人は役人風情、木っ端役人と同じ、か。政治家は切り得る者を切って自らの責任を問わない。これを不都合と断言する手段はないが、うさん臭い後始末と映ることは止められない。すでにあの最長佐藤内閣に次ぐ長期になった現政権、この先洋々と長くはないだろう。といって森内閣のような極端な低支持率でもない。余力が向かうのは改憲、と考えるのが自然。政権党の党是というより意地だ。人口過半数の支持を得ない党の意地で最高法が変わるのは困る。矛盾だらけの沖縄返還の後退陣した佐藤元首相を思う(2018.06.05) 

 

332.   日本に来る外国人観光客の数が2、800万人になったとか。ついこの間までは1,000万人ぐらいなもので、長く低値安定状態だった。いつどうしてこんなに増えたのか。思うに、高い高いと言われた日本の物価がけっして高くはないことを世界の人々が気づいたからではないだろうか。同じ昔、言い訳程度のサラダがついたピザ1切れと缶ビールをロンドンの路頭で注文してたまげた。千円少々と思った2人前が3,700円。今の日本、この支出をすれば肉料理である牛丼をぞろぞろの大家族で食べられる。飲み放題の冷たい水までつく。矮小な一例とはいえ何たる格差。真理を表すのはどちらなのか。日本の商売、客足は真実か、虚像か(2018.06.06)  

 

333.   NHKの番組や書店に並んだ種々の書籍によれば、北朝鮮のGDPは韓国の60分の1程度。日本と比べれば百分の1に遠く及ばない。アメリカと比べたらどうなるか。そのような東アジアの最貧国が、核兵器を持ったことになれば世界最強のアメリカの向こうを張ることができる。また、この国の政治犯はその数約30万。他に刑務所収容者がいる。率にして日本の受刑者の30倍を上回る国民が獄につながれている計算。このような人権状況の国と民主主義のリーダーであるはずのアメリカがトップ会談を行う。両国の共通点は「核」だけ。これをノーベル平和賞委員会が興味深げに見守る。人間というものは他に話のタネがないのだろうか。(2018.06.07) 

 

334.   珍しく超多忙になった日の昼、空腹に耐えかねて牛丼の店に不時着。牛丼290円。安い店ではせっかくだから安いものを注文する。そういうものだろうと思うと、周りは裕福だ。こちらの2倍3倍の勘定を払う。驚きかけた、が、驚いたのは見知らぬ人の箸使いを見てのことだった。一組の箸の頭近くを幼児がするように拳で握りしめ、小さく開いた箸先で食を器から口にかっ込む。見ている方の気持ちがイライラ曲線状に歪む。箸はちゃんと使えた方がいい。挨拶などは芸だから、外交的性格に有利にできている。箸使いはどの性格にも公平だ。きちんとできればその人のことが大体わかる。のみならず、その親までも立派な人にする。(2018.06.08)

 

335.   今の米大統領はけしからん男だが、この頃は「バカか?」とさえ思う。あくまで、ご本人の語彙レベルに倣っての言葉。国民3千余人に恩赦を施し、自らのロシア疑惑にもそれを適用するのだと。何たる正直なおじさん。どこの国にも知的レベルで中位以下の国民は半数いる。進化論を信じなくても知らなくても不思議ではない。そういう人々の票をまとめて大統領になったこと自体は立派でもある。かつて大阪府は、後にピンク事件を起こす人や在日米軍に日本の風俗営業通いを勧める人を知事に選んだが、結局両人とも辞任した。アメリカがこの種の実験で選んだ人物を再選した時は、大阪の知性はアメリカを上回ると誇っていい。(2018.06.09) 

 

336.   北朝鮮の指導者おにいちゃんが飛行機で西側世界へ来たのはえらい。おにいちゃんの父ちゃんは飛行機嫌いだったし、そもそも何があるかわからない反対世界には行かなかった。1987年に大韓航空機の爆破を命じて150余人の命を奪ったのはこの父ちゃん。ほっかむりをしたままあの世へ行ってしまったが、自分が変に消されることは単なる飛行機嫌いでなく恐れていた。国内を行くのも極秘裏、汽車の旅。特殊な人間の異様な立場上当然だ。その息子、自分の家が代々ひと様の命を丁重に扱ってこなかった関係上、よそからの自分の命の扱いも必要以上に想像しているだろう。今回はマジメなのかな? 妄想する側に命の危険はない。(2018.06.10)  

 

337.   米大統領が代替わりする前、アメリカ人の青年とよく話をした。青年は候補になれなかったサンダースに代えてクリントン支持。トランプは論外の冗談だった。「民主党政権が16年になるのはまずくないか」。「あれを選ぶよりはいい」。教養人の予測では下品なおっちゃんがアメリカともあろう国の大統領になるはずはあり得なかった。間もなく、アメリカも世界もひっくり返る。ヒトラーを権力者にしたのは選挙であり選挙制度だった。民主主義の装置が世界最強国を集団狂騒に導かないとは限らない。とりあえずノーベル平和賞が目を覚まさなければ。おっちゃんの再選運動に平和賞が贈られてはならない。明日、米朝首脳会談。(2018.06.11)

 

338.   先進国首脳会議に出て周りを困らせたおじさんが、その足で次の寄り合いの場シンガポールに向かう。ホテル代を払えるかどうかわからない指導者おにいちゃんと会う。「銃を捨てろ、捨てれば撃たない」。「他のもんはどーでもいいからオレの命は助けてちょーだい」。首脳によるとてつもない低級会談。いい指導者に恵まれ、環境が整い、そして朝鮮戦争の終焉を画す。本来はこうだろうに。それはそうと、二人ともえらいホテルに投宿したもの。いつも思う。ワールドカップのサッカーなどは高校あたりのグラウンドでやってこそかっこいい。米朝会談は北海道駒ヶ岳山麓ぐらいでどうか。風光明媚環境安全、一泊2万円で済む。(2018.06.12) 

 

339.   一泊60万円だか何だかの宿代が心配だからか、指導者おにいちゃんは話が済むと帰ってしまった。シンガポール国民に愛嬌を振りまいておけばよかったのに。大統領がぽつんと残って偉大なる成果を発表することになった。この成果が偉大なら、会談はする前から偉大だ。偉大と言う以外に始末のしようがない。様々な人たちの悲願を背負うべき会談を何と不向きな二名がやったことだろう。ノーベル平和賞受賞阻止。おにいちゃん一人になら、自身と取り巻きを除く全世界が笑えるからやってもいい。くれるなら明日にでも。米朝の話はつまりこれから。やたらなごね方ができないよう、きれい事の枠をはめておくのも一つの手だ。(2018.06.13) 

 

340.   新幹線利用の際はいつも席を2列の方に取り、自身は普通窓側に座る。これからは逆にしなければならないか。「誰でもよかった」男がナタを振り回す通路側に妻を置いては外聞が悪い。人目からやや遠い窓の棚にワンカップを配置する楽しみは色あせるが。3列席で「むしゃくしゃしていた」男と居合わせないだろうか。指定席はえきネットで早めにお好み手配をしておかねば。そのうち「むしゃくしゃしていたから誰でもよかった」女がぽつりと出てこないものだろうか。手荷物検査は無理だろう。何をしても危ないのが世の中。それでも、新幹線が自らの落ち度で人一人の命を亡からしめたことは一度もない。やはり、乗る(2018.06.14) 

 

341.   想像するも恐ろしい事態。金属車体の流線型先頭部が人との衝突であの損傷するものだろうか。脱線、転覆、衝突など、鉄道として根本的に遺憾な原因で新幹線が人を死なせたことはない。今回もおそらく外的要因による不幸だろう。かつてホームで一人が死亡し、近くは焼身、最近では刺殺の事件が車内であった。どれも新幹線自体の落ち度ではなかった。そして今回。残念至極、ノーベル平和賞級のイメージに傷がついた。何としても名誉保全に努めねば。その間に日本国憲法に手がつかないことを切に願う。あるべき姿の新幹線と共同で平和賞を受賞するに十分の実績をもつものだ。米朝会談のご祝儀に平和賞など、遺憾の極み(2018.06.15) 

 

342.   テレビの女性キャスター、いわゆる女子アナは美人限定かというと、同じNHKでも広く見渡せば必ずしもそうは言えない。そう言えない方の女性が一生懸命働く様を見るとその技量が推測され、世の中これで正しいと感じる。一方、男一般にはやる気があれば姿はまあいいやの印象が伴う。顔のことは結局言えない。もう少しびしっとしてはと思うことがある。才色完璧というべき女性の隣、腰を低くして手もみ状態で添え物になっているおにいさんなど。同じく才媛の隣で硬直している中間管理職風。能力さえあればと言うが、能力と容色の女が頑張っている。映像の世界、男もそれ式にしては? 高度ぷろふぇっしょなる労働だ(2018.06.16)

 

343.   聞くところ、NHK職員の給与は悪くない。にもかかわらずフリーになって上を目指す人がけっこういる。年俸数十億というスポーツ選手がいるのだから、人間の需要感覚は融通無碍ということか。NHKにいた人が民放花形番組に降下し、他を除けるようにしていい席を占める。受けなかったらどうする。数十億円を取って鳴かず飛ばずになる選手と同様、勝手ながらその心中を想像してしまう。かつてキャスターの範囲を超えて引っ張りだこの人気だった女性は、フリーになった後はごくたまにラジオで声が聞こえるだけだ。あの人が、と気の毒がるのは無知なのか、余計な世話なのか。NHK職員、のんびりやっていればいいのに。(2018.06.17) 

 

344.   自分の家に限りレンガ、ブロックなどのセメント仕事をする。その素人の目にもまずいと映るのが、高槻市の小学校の塀。崩れるのではなく、基礎の上でぽきっと折れている。この塀の下の歩道を規則通り歩いていた少女の惨禍には耐えきれない思いを抱く。くしくも前日、団体の会議中に地震に遭った。予感はもちろん体感もないところで周囲の人たちの携帯電話が一斉に事変を告げる。最初だけ「地震です」と聞こえた。直後、音声が重なり合い、何のことか何が起こっているのかわからなくなった。こざかしい仕組み。しかし、災害はこのようにして、と思わせるに十分な忌々しさでもある。なぜか、全く無力な気分になった。(2018.06.18) 

 

345.   上杉謙信はトイレに立って倒れたのが最期だというが、ドラマでは今際の床に息子たちを集めて訓を垂れたりする。落城の姫君が逃れる背景では城はたいてい紅蓮の炎に包まれている。ドラマだから劇的にするのだろうけど、NHKの大河ドラマなどはどのくらいほんとなのだろう。織田信長は独創性ゆえに偉いと言われ、坂本龍馬は先見の明で讃えられる。しかし、時代の移り変わりには歴史の必然が伴うもの。信長も龍馬も、ご本人たちが出なければ別人が時代の要請でその役を行ったものと思われる。世間一般ばかりでなく大学生まで歴史劇を歴史学と思い込むようになったのはなぜだろう。歴史の授業が扱う歴史劇は不評なのに。(2018.06.19) 

 

346.   朝起きると雨。梅雨時だから雨。梅雨なのにカッと暑いなどというより何といいことか。高校時代までは北海道に住んでいて梅雨というものを知らなかった。うっとうしいのだという。カビが生えるという。布団を干せないという。これらはみんなウソだとわかった。豪雪でもなく炎天でもない今時は、春秋の日和に及ばないとはいえけっして不快な季節ではない。雨の向こうには昔が見えるような気がする。実際、窓のすぐ外に生け垣が見える。手入れが老後の面倒にならないよう伐ってしまったものが見えるのだ。息子たちが傘を差して小学校から帰ってくる。彼らはもう中年に近いのに。雨と追憶。どういう仕組みなのだろう。(2018.06.20)  

 

347.   高い所から水平線を見晴らし、「地球は丸いんだ」と感嘆する人がいる。実際の地球は、人間一人が微少な範囲を目視して大きさがわかるほど小さくはない。カメラとしての人間の目にはまる魚眼気味のレンズが平たい遠景を曲線にするのである。それでも、テレビで北海道の神威岬や室蘭チキウ岬などからの丸い水平線を見ると理屈抜きに、地球つまり故郷としての彼の地を思う。なじみの大工Uさんと話をした。陸前高田出身、方言保存会会長のように不明言語を使う典型的おっさん老人。棟や窓の水平は遠くの水平線から取るのだと言う。「家を建てるときは海を見るんだ」。おっさんにして何たる詩人。通訳すればの話だが。(2018.06.21) 

 

348.   障がい者施設で19人の命を奪った男の手記が出版されるという。被害者側が許し難い感情を抱くのは当然。反面、社会は事実について知りたいと思う。出版によって決定的な不利を被る個人、すなわちそのような人格・氏名をもつ人あるいは人々が徹底的に抵抗しない限り出版差し止めは難しいだろう。本が出て愉快を味わう人はきっといない。いたとしても、そのような者のために出版があるのではない。こうして苦痛な思いが確実に広く残る。それが言論であり表現。信じられない非道を行った人物による手記の例はいくつかある。それらが読まれて世の中が良くなった実感は全然ない。また何かが起こるがゆえの出版なのか。(2018.06.22) 

 

349.   6.23沖縄デーを今は「沖縄慰霊の日」と言う。沖縄の戦跡に総理大臣と沖縄県知事が同席し、言葉をぶつけ合わず互いの式辞を述べる。沖縄が返還されても、基地問題が論議されても、沖縄は変わらなかった。戦後73年もの間変わらなかったのだから、今することといえば「慰霊」しかない。こうして慰霊の日があるように思われてならない。今は遠い6月23日、催涙弾の煙が滞留する日比谷公園で機動隊に両腕を掴まれ護送車に放り込まれそうになった。通りすがりの美術学生が大魔神のような機動隊からどう逃れたのか記憶がない。ただ、相手は権力だと感じた。権力と戦わなかった。逃げおおせてしばらく恥の感を免れなかった。(2018.06.23) 

 

350.   詩を聞きながら目覚めた。ドン・マクリーンの歌。「人々は君を愛せなかったけれど/れでも、君の愛は本当だった/あの星の夜、目の前に希望がひとつも残っていなかったあの星の夜/恋人たちがしばしばそうするように/君は自ら命を絶ったのだった/言ってあげればよかったのかもしれない/この世は君のために作られてはいなかったのだ/その美しい心のために作られてはいなかったのだ、と」。フィンセント・ファン・ゴッホは多分いやなやつだった。つき合いづらい一途さだった。それを歌手は美しく歌う。詩とは作るものではなく、真実が自らを謳うものなのだろう。懐かしい声が詩の真実を歌った夜明けは先ほど(2018.06.24)